鶏頭の十四五本もありぬべし 子規  ②

鶏頭論争は「ありぬべし」の文法的解釈をめぐって続きました。

山本健吉氏が「ありぬべし」を 断定=感動の重さ と受け止めてその単純素朴な即興性を評価したのに対し、

大岡信氏は「ありぬべし」の 短歌のように7・7へ続きそうな未完結性の印象、思わせぶりとも取られかねない独り言の印象を指摘した上で

   完了の助動詞「ぬ」+推量の助動詞「べし」が結びついた。
   この用語法には完了だけでなく確信や確認を表す意味も加わって
   いるが現在ただいまの景を詠む客観写生の語法としては異様である。

と言います。そして

『近代文学大系』の『正岡子規』の補注をもとに根岸子規庵に門下生18人が集まったこの句会とこの日の子規を「小園の記」(明31・10)「根岸草盧記事」(明32・12)と読み合わせて「推理」をしています。
その要点は

   明治33年9月9日、子規は体調も宜しくなく、
   一回目の句会は九つの句題のうち「筆筒に拙く彫りし柘榴哉」の一句のみの出句。
   二回目の句題は「鶏頭」、子規は「鶏頭の十四五本もありぬべしの」の他に以下のような句を出句。

   鶏頭や二度の野分に恙なし
   誰が植ゑしともなき路次の鶏頭や
   朝顔の枯れし垣根や葉鶏頭
   萩刈りて鶏頭の庭となりにけり
   鶏頭の花にとまりしばつた哉
   塀低き田舎の家や葉鶏頭   

   子規は嘱目の写生句を作ったが満足しなかったのではないか。句作への倦怠感が過ぎった時、
   その日の庭に咲いている鶏頭から昨年冬の鶏頭をたたえた『根岸草盧記事』(明治32年・12月)
   の自分の一文が思い出され、去年の思い出のために子規は筆をとってすらすらと 
   鶏頭の十四五本もありぬべし と書きとめたのではないか。

つまり「根岸草盧記事」に著した「十本余りの燃えるやうな鶏頭」を思い出してたたえた句ということです。
去年の鶏頭をともに見た虚子と碧梧桐、この句会に碧梧桐は不在だが、虚子には通じるかと子規は思ったかもしれない、そう思った子規を考えると人恋しさのたゆう句とも言えるようだと大岡氏は書いています。虚子は気がつかずこの句に点を入れなかった(虚子は「鶏頭や」の句を採った) という結果になるのですが、その上で一層この句が好きになるのを感じる、と大岡氏は書いています。


昭和53年に刊行された『子規全集』(講談社)には子規を中心とした全ての「句会稿」が収録され、出句の全てと参会者の選句が詳らかになりました。『子規全集』22巻月報で山本健吉氏は この日の虚子が天・地・人に採った句とこの「十四五本」の句を比較して

   実の勝った当時の写生句から見れば、この句はむしろ虚が勝っている。俳句から見れば、短歌は
   虚が勝った文学であり、虚の世界になじむことが多い。だからこそ当時の写生派俳人に見過ごさ
   れた。本当はこれこそ、写生句、生きた命を写し、命の灯をともすという意味での写生句だったのだ。

と「十四五本」の句が傑出していると書いています。

評価をめぐって様々に論じられながら生き抜いている「鶏頭の十四五本もありぬべし」の句です。

林桂氏は
  
  「ありぬべし」の「ぬべし」は完了ではあっても過去ではない、
  辞書的には現在を主張している。

と指摘しました。また、この日の子規の人恋しさの「推理」には無理がある。選句は提出された「作品」に対しての判断であり、作句と選句の間には表出レベルの違いがある。との見解を述べました。

現在のインターネット記事を読みますと、作者の名前を知った上で俳句を境涯によって鑑賞することの
是非、そして「俳句の状況」と「俳句の核心」という問題へと発展して論じられています。
     
  
  


     参考図書 『子規・虚子』 大岡信著 花神社
            『子規全集』 12巻 15巻 22巻   講談社 
            『日本近代文学大系・正岡子規』 松井利彦著 角川書店
            『船長の行方』 林桂著  書肆麒麟
     参考記事 俳句空間 Weekuly鶏頭論争もちょっと 高山れおな
                        鶏頭論争もちょっとにちょっと 山口優夢

                                                           (千惠子)
[PR]
by hakusanfu-ro | 2014-09-11 10:08


正岡子規に学ぶ


by hakusanfu-ro

画像一覧

S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31

カテゴリ

全体
未分類

以前の記事

2014年 12月
2014年 09月
2014年 06月
2014年 04月
2013年 10月
2013年 08月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 02月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月

フォロー中のブログ

最新のトラックバック

その他のジャンル

最新の記事

花木槿雲林先生恙なきや   子規
at 2014-12-06 06:02
鶏頭の十四五本もありぬべし ..
at 2014-09-11 10:08
鶏頭の十四五本もありぬべし ..
at 2014-06-27 11:51
『子規句集』と『子規の俳句』 ②
at 2014-04-28 07:03
子規の「平気」~『子規句集』..
at 2014-04-17 10:24

外部リンク

記事ランキング

ブログジャンル

画像一覧